著作権という言葉について
前々回のエントリに対してナカブロさんからいくつかご指摘をいただきましたので、お礼も兼ねていくつか書かせていただきたいと思います。
第一に、これは誤解ではなくて簡略化して理解しやすく説明しているだけだと思いますけれど、たしかに著作権法は著作者について創作者主義――事実行為として作品を創作した自然人が著作者であるという考え方――をとっていますが、創作者主義にはふたつの例外があります。
ひとつは職務著作でして、会社の従業員などが仕事で作成した著作物の著作者は会社になります(著作権法15条)。
もうひとつは映画の著作者でして、映画は多数の人がかかわる共同著作物であることが多いのですが、全体的形成に創作的に寄与した者(多くの場合には監督)が著作者になります(著作権法16条)。
以上のご指摘は私の至らないエントリに対して補ってくださる形となっています。ありがとうございました。ただ、ご指摘の二番目に関しては少しコメントを追加させてください。
第二に、こちらが指摘したかった部分ですが、著作者人格権は著作権ではありません。著作者の権利には著作権と著作者人格権があります。著作者の権利と著作権を混同することはよくある誤解です(著作権法17条参照)。著作権とは著作財産権のことをいいます。
「著作者の権利と著作権を混同することはよくある誤解です」とおっしゃっていますが、著作権とは財産権的な要素と人格権的な要素を併せ持っていると把握して著作権を一元的に捉えようという学説はあります。例えば半田正夫先生の『著作権法概説』などはそうですね。ドイツのUlmer先生およびその門弟の方もこの説を支持しているようです。また、こうした考えを立法に込めている国も少数ですがあります。ドイツ、オーストリア、ハンガリーなどです。
ご指摘の通り、「著作者の権利」は大陸法系諸国が「著作権」の意味で用いているので紛らわしく混同されやすいものだと私も思います。
しかし、私はこうした一元説を採用しているというわけではありません。ただ単に世間一般に言われる(広義の)「著作権」というものが狭義の著作権と著作人格権とを指していると認識しているため、そのような語の運用をしました。例えばwikipediaにおいても
狭義の著作権は、日本国憲法でいう財産権に含まれる。これは著作物を財産として利用する権利である。ただし、著作権法ではこのような著作財産権の他に、著作者人格権、著作隣接権に関する規定を設けることも多く、これらを総称して広義の著作権と呼ぶこともある。
という記述があるため、一般的な認識であると把握して、特に注記などもしませんでした*1。
以上二点の指摘が何を意味するかというと、職務著作もしくは映画の著作物にあたる場合には、実際の創作者ではなく使用者もしくは監督などに著作権と著作者人格権の両方が原始的に帰属するということです。人格権も会社のものになるという点がポイントです。
このご指摘も全くその通りです。わざわざありがとうございました。