学問バトン
logical cypher scapeのid:sakstyleさんより回していただきました。荻上チキさんの作ったバトンだそうです。
id:inflorescenciaさん(半可思惟)
著作権関連のエントリで有名なinf.さんです。inf.さんの方は僕のことはほとんど何も知らないと思うので、突然知らない奴からバトンが回ってきて迷惑されるかもしれませんが、バトンを回してみたいと思います。
忙しそうな方なので答えていただけるかどうか分かりませんが、inf.さんの学問バトンを読んでみたい人は結構多いのではないだろうかと思います。
えー。おだてには弱い性分なので…謹んでお受け取りいたします。
というか、いただいてから時間がたってしまってごめんなさい…。
あなたの専門・専攻・得意教科は?
広く言えば法学です。そのなかの法律学ですね。
そういえば最近、指導教官から「君は著作権腐女子だろう?」と言われました。オタクなのはもう業なので否定しませんが、ぜんぜん腐女子じゃないよ!というわけで「女オタク≠腐女子」であることを小一時間力説しましたが、先生は理解する気が最初からないらしく…。(しくしく)(…)
ゼミは知的財産法専攻です。著作権法以外もちゃんと勉強しとけと怒られて、特許法、意匠法、不正競争防止法等も学んでいます。あと最近金融商品取引法にも興味がありますが、まだまだ追いかけきれていないという感じです。というかFSA…忙しいのは本当にわかってるけど、発表はもう少し早く、ね…?
あなたは、どのようなテーマに関心がありますか?
とても大まかに言うと、情報技術が人と社会(特に知的活動)に与えるインパクト、およびその対応です。
目下のところ興味があるのは、黙示的許諾が推認されるのはいかなる場合かとか、法人の有する著作者人格権は人格的利益のためにあるのかどうかとか、著作権と所有の関係についてとか…というか所有ってそもそもどんな概念なのかとか、ブログでの記事も報道ととらえて著41に該当すると言って良いのかどうかとか、ネットオークションのサムネイル表示を引用と言えるのかどうかとか、著作権の間接侵害の成立させるための要件論とか…。
あー。こんなんだからオタクやめられないんだよな。でもだから著作権腐女子じゃないんだってば。
あなたは、なぜその専門・分野を選んだのですか?
消去法と惰性です。
まず算数からして駄目だったので理系の道は閉ざしました。物理とか数学ってすごく美しいから傍から見ている分には良いんですけどね。音楽も同様です。美術は一番好きなので趣味にしています。自分の才能を信じられなかったというのが一番大きい理由ですが、作っている過程が好きなのであって、出来上がったらどうでもよくなるということに気が付いたからでもあります。
そういうわけで文系へ流れ着きました。
哲学も社会学も文学もそれなりに好きですが、どれも無限に後退して最初の議論にすら辿り着かない感じがして…。それはそれで楽しいんですけど、とりあえず結論が出せてすっきりした気分を味わいたい。白黒つけられるのが好き。だから法学を選びました。そして美しいものが好きなのでそれを守ってる著作権とかやりたいなー、と。論理が飛躍していてすごい適当ですが、まあ要は直感です。
あなたが最も影響を受けた人と、その理由を挙げてください(複数人可)。
- 姉
「美人はね、存在するだけで価値があるの。だからあなたは自分の力で付加価値をつけていかないといけないのよ?」「暗い不細工なんて最低。せめて明るくしないとね」等々、いわゆる世の現実というものを教えてくれて導いてくれました…。今でもおねえちゃんは私にとって世界最怖の生物です。
- 友
いつもお世話になっています。大変優秀で勤勉な方々が多いので、私が頑張らなくてもこの人たちが頑張ってくれるからきっと大丈夫という安心感を与えてくれます。
- 茶会員
皆むちゃくちゃ優秀なのに一癖二癖あって社会的地位も微妙で勿体無いというか何というか…。でもネタに真剣なところが面白いです。ちゃんと議論の相手になってくれるし。実際のところ、オフラインで論争できるのって茶会員とゼミの先生だけという現状があるので大変ありがたい存在です。
あなたが影響を受けた本とその理由を、何冊か挙げてみてください。
では学歴を追って。
小学校
低学年の頃はなんといってもクレヨン王国シリーズ。
- 作者: 福永令三,三木由記子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1980/11/10
- メディア: 文庫
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- 作者: ヨースタインゴルデル,Jostein Gaarder,池田香代子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 1995/06/01
- メディア: 単行本
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中学校
この頃は祖父母の家にあった昭和20年代の新書とか文庫をばかすか読んでました。中公新書と岩波文庫が多かったでしょうか。夏休みに母の実家へ行って書庫で見繕った本をダンボールで自宅に送って一年かけて読んで翌年返すみたいな。今思うと、よくよく自由にさせてもらっていたなあ、と。祖父の蔵書は歴史と政治経済に偏っていたので、現在の進路に影響を与えているのかもしれません。
ちなみに同時期に懸田訳の『精神分析学入門』を読んで心理学に拒絶反応…。同じ理由でクリムトも大嫌いに!ちょっと不幸な出会いだったな。別のところで出会っていたら心理学が好きになったかもしれません。
で…
- 作者: ゲーテ,Goethe,相良守峯
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1958/03/05
- メディア: 文庫
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中学の卒論(あったんです)は「少年犯罪と法医学」。なので関連書籍は結構読んだかな。今思うと何でこのふたつなんだろう…。犯罪は凶悪化してないし増えてるわけでもないっていう統計と、じゃあどうして凶悪化してるって言われてるのか、という話。途中で17歳の事件が連発したので話はそちらに流れていきました。法医学がどう絡んでくるのかはもう忘れた…。
高校
高校2年生のときから、ようやっと論理的にものが考えられるようになりました。構造主義とか脱構築とかを知って結構衝撃を受けたり…なかなか面白い体験でした。
- 作者: 山本雅男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/02/17
- メディア: 新書
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- 作者: 永江朗
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: 単行本
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- 作者: 永井均
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/01/01
- メディア: 新書
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特に永井均さんは私の感覚に近くて、変な言い方ですが、この人に哲学を任せておけば良い、という感じがしました。解釈学的展開と系譜学的展開の話は面白かったですし、ウィトゲンシュタインの話は…なんでしょう、いまでもうまく分節できないので沈黙するしかありません。
マキャベリの君主論とかドーキンスのミームとかは英語で読みました。だから内容理解結構あやふやかも…。ミームのことを最初「めめ」だと思っていたのは内緒だ。
高校の卒論は「近代資本主義と宝塚歌劇団」。ジェンダー論とか労働論から宝塚を観察したらどうなるか、という話。読む人が読めば、自分の高校、ひいては日本における女子教育への批判だとわかったでしょう。誰からも指摘されなかったけどな。ジェンダー、フェミニズム関連の書籍は色々読み、面白いと思ったのですが、周囲が無反応だったのでなんだか興がそがれました。
大学
大学に来て最初に借りた本がこれ。
- 作者: ローレンスレッシグ,山形浩生,柏木亮二
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2001/03/27
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レッシグが説こうとしているのは、ネットが規制可能かどうかは場合によるし、規制が不可能か可能かはそのネットのアーキテクチャによって決まるよ、ということ。ネットワークの規制・制御のしやすさは設計によって変えられる。変えて、規制しやすいネットワークにできるし、それはインターネットのコード群にコントロールを可能にするようなプロトコル群を追加するだけで成り立つ。それで、現在のネットにはいろいろと「欠陥」があるけど、技術の進歩によって将来的には解消できる。そうすればネットは無法地帯ではなくなって秩序ある空間になるけど、同時にネットは完全な管理のツールになってしまう。コントロールが限られていた空間ではじめて自由は可能になるから。それは良いことなのか、とレッシグは問いかけてます。そしてさらに、この良いこと、正しいことなのかどうかっていう議論は間にあわないだろうと予測してるんですよ。なぜかって、商業は信用に基づいていて、信用は基本的に、取引相手の同定とその証明書の確認によって成り立っているし、国の規制も同じものに基づいてるから、両者が手を結べば法と市場(ものの値段で行動を規制するもの)の両面から規制を強化し、全体としての方向性は確実に規制強化に向かうことになるだろうからと。
じゃあサイバースペースでの著作権はどうなの?っていうと、レッシグはこう考えています。今は法律で保護しきれない部分があるけれど、保護の不完全さ(引用したり、時には友達にコピーして紹介すること)には価値があって、これまでの規制は意識的にその不完全さを保護している部分と、物理的に保護しようがないから放置してた部分とがあったけど、ネット上でアクセスと利用を規制する力はほとんど完璧に近くなることが予測される。保護が完成したら不完全性を保証するものはいなくなってしまう。市場も政府も「欠陥」をシステムに盛り込む必要はないから。だけど、保護の不完全さに本当に価値があるならば、不完全さを確保しなくてはならない。
うーん。やっぱりすごく影響を受けていますね。
入門者に、その分野の「入門書」として一冊お勧めするとしたら何を薦めますか?
法律学という意味ではこれかなあ。
- 作者: 弥永真生
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2007/03/16
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 38回
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著作権となると難しいですね。うーん。強いてあげるなら…
- 作者: ローレンス・レッシグ,山形浩生,守岡桜
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2004/07/23
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 93回
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あなたが考える、その専門・分野の「武器」はなんですか?
なんとなく人を煙にまけるところ…?
他人に「君、大学では何を研究してたの?」等と聞かれた場合、なんと答えるようにしていますか?
質問の趣旨からは逸れますが、「正しさとは何か」を見つけようとしているのだと思います。
正しさ、というのは確固たるものとしては存在しませんが、ここはこうあるべきだ、という信念は一人一人が持っていて、それらがぶつかり合うことで、結果として「これがたぶん正しいのだろう」という方向性の道筋が決まっていく…はずなんですけど、何故だか日本はあまりそういう風にはならなくて…。まあ、とりあえず異なる意見や思想がぶつかりあって均衡、というのが私としては楽しい。
で、そういうぶつかり合いが起こりそうな場所を探すことが、私が大学に行った目的の一つだったのかもしれません。保育園くらいのころから、そういう場所に対する憧れはあって、現在それが大学で実現できてるかどうかは微妙ですが(茶会とか指導教官にからんでるくらい)、かつてに比べれば苦しくなくなってきています。
そういうわけで、研究というか探求しに行ってるはずなのですが、なかなかうまくはいきませんね。むしろ大学よりもブログの方に手ごたえがあったりします。
あなたがその専門・分野に関して、一般の方に知ってもらいたいところは何ですか?
がらがらぽん、で結論は出ないということですね。
先ほど「白黒つけられる」から法律学をやろうと思ったと書きましたが、実際学んでみるとさまざまな逡巡や論争を経て、やっと一応の結論を得ているのですよ。でも、なんというかそういうところがむしろ愛しやすい…。
条文で全てが決するわけではなくて、場合に応じて広く解釈したり狭く解釈したり、場合によってはこじつけたりして、個別具体的な社会的妥当性は何か探っていく。その際、歴史的な経緯とか、経済学的な考察とか、諸外国の立法とかを参照しながら考える。そういう営為は難しいですがやりがいがあります。
あなたがその専門・分野に今後期待することはなんですか? あるいはあなたがその分野で達成したい目標はなんですか?
うーん。いっぱいあります。
法律の面白く難しいところは、その可塑性にあると思います。要するにものの考え方が説得的であれば、大前提である条文すら変えられるというところに醍醐味があったりします。だからすごくいろいろな期待がありますし、それは達成したい目標につながってきますが、それらを書き出すと論文になってしまうので、また別の機会に、ということで。
次に回す人たち
うーんうーん。まあ受けてもらえるかわからないし、手当たり次第…。
Spiegelさん:大学の頃何を専攻されていたのか知りたいです。
id:atsushienoさん:同上。というか本当に謎…。専門は何だったんでしょうか?
id:yomoyomoさん:影響を受けた人の項目が気になります。会長は犬なので入りません。
id:copyrightさん:影響を受けた本に三田さんの本は出てくるでしょうか?w
id:cedさん:最近金融系に興味をお持ちのようですが、初学者向けの本を紹介していただければ。
以上です。皆さんお忙しいでしょうが、お暇でネタがなくなったときにでも、もしよろしければ。