初音ミク・ファンドの可能性

ニコニコ証券取引所の先行きに暗雲…と言うだけでは少し後ろ向きなので、少し別の方向も検討してみた。取引所を運用することと商品を作って取引所で取引することは次元が違うのだが、とりあえず商品を作ることの可能性について考えてみたいと思う。以下では、説明を簡略化するためにここではボーカロイドに対象を限定して話を進めることにする。


実は、知的財産関連の金融商品というのは、昨今ではもはや珍しいものではない。
例えば、2005年10月にはSMBCフレンド証券が商品投資販売業者として「北斗ファンド」を販売し、三井住友銀行が運用し、武論尊原哲夫の両先生の代理人を務めるノース・スターズ・ピクチャーズが指定委託業者として映画化やDVD化などのプロデュースを行っている。また、『蟲師』の実写映画では、信託ファンドとして2億6000万円の資金調達を行った。つまり、最近ではいわゆる「委員会形式」以外の方法での製作も結構行われているのである。あとはグラビアアイドルの育成をファンド化したアイドルファンドなんてものもある。

しかし、アニメやアイドルにうるさい読者諸氏においては、商品としてのアニメ・アイドルがハイリスク・ローリターンであることは明らかなのではないだろうか。私たちは幾人ものアイドルが花開くそのまえに引退したり妊娠して結婚したりするのを目にしているし、とても面白い漫画が日の目を見ないまま打ち切られたり雑誌自体が消えたりするのを度々目撃している*1

ここが難しいところであり、商品を運用する側としては、いかにリスクを低減化しリターンを大きくできるよう設計をするかを問われる部分である。または、一般投資家に金銭以外の見返りを用意するなどの工夫もできるだろう(投資家向け限定握手会とか、特別グッズの頒布とか)。


さて、金融商品というのは、基本的には元本を投資家が投資して、そこに年率で何パーセントかの利益が発生するというモデルが必要だ。つまり、ボーカロイドが存在するというだけでは何の商業的価値も発生しない。CDデビューをしたり、キャラクター関連商品の作成をしなければならないということになる。
あるいは、例えば次のボーカロイドをクリプトンが製作したいと考えたとして、でもクリプトンにはそれが可能なだけの資金が足りない場合などに、ボーカロイド投資信託の可能性がある。そのような場合、クリプトンで得た利益の還元スキームになる点に注意が必要である。もし作品個別で金融商品を作るとしたら、なかなかコストが割に合わないだろうし、リスクが高すぎる。これは前述の通りである。

というわけで、私が金融商品を作るとしたら、ボーカロイドごとのファンドにすると思われる。特別目的会社方式をとるか、有限責任事業組合方式*2をとるか、投資事業有限責任組合方式*3にするかなどは、課税リスクその他の要因から詳細な分析が必要なのでここでは割愛する。


重要なのは、ここまで読んでもらえればわかると思うのだが、ことボーカロイドのファンドを作るにあたっては証券取引所は必要ないということだ。証券取引所は、言ってみればインフラだ。取引所がなくても商品の取引はできる。
取引所は、一種のステータスシンボルであり関所のようなものだ。一定の条件をクリアしていないと上場ができないし、上場のための審査もあるし、状況を逐一報告しないといけないから、その企業や商品の透明性が高まり、投資家にとって優しい投資環境ができあがる(はず)で、その点にはメリットがある*4。あと、取引所があると流動性が圧倒的に高まる。つまり、売買したい人がたくさんいる。そのようなメリットがあるにせよ、必ず利用しなくてはならないものではない。
何が言いたいのかというと、 ITインフラとして(ランキングシステムではなく金融商品を本当に取引する)ニコニコ証券取引所をつくるというアイデアそのものは面白いし、実行不可能なものではないかもしれない。ただ、そうするためには取引に参加したいと思う人がたくさん出てくるような豊富な商品と、価格形成の透明性、取引形態の透明性といったものが必要になる。もちろん諸々の法規制をクリアすることも。
でも、それを乗り越えて証券取引所を作ったりする人たちがいれば、ニコニコ動画は動画投稿サイトを越えて、またひとつの新たな市場を形成できるようになるのである。

*1:実際、アニメ界では鉄板とも思える宮崎駿作品ですら『紅の豚』で(興行成績は良かったものの)、日本航空を泣かせたらしい。アイドルファンドでも、これはと思うアイドルを厳選しても、全員をメジャーにするのはかなり困難だということだ

*2:テレビアニメ版「DEATH NOTE」はこのスキーム

*3:オンラインゲーム「グランディア オンライン」で利用されたスキーム

*4:日本の場合は微妙かもしれないけど…