フレームいろいろ

フレーミング(framing)は、宣伝や報道の心理的効果を狙った技法のひとつです。その代表的例としては、ポジティブフレーミングとネガティブフレーミングがあります。まずは次の例を見てみてください。

【例1】
新種の伝染病が近い将来600人の死亡者が出すことが予測されていると仮定する。その対策として、
政策Aを採用すると600人のうち200人が助かる。
政策Bを採用すると1/3の確率で600人全員が助かり、2/3の確率で全員が死ぬ。

AとBどちらの政策が好ましいでしょうか?
統計によれば72%の人がAを選ぶのだそうです。
ではこちらだとどうでしょう?

【例2】
新種の伝染病が近い将来600人の死亡者が出すことが予測されていると仮定する。その対策として、
政策Aを採用すると600人のうち400人が死亡する。
政策Bを採用すると1/3の確率で600人全員が助かり、2/3の確率で全員が死ぬ。

【例2】だと78%の人がBを選択するそうです。
でも、賢明な皆さんにはお分かりの通り【例1】はポジティブに表現していて【例2】はネガティブに表現しているだけで、ともに内容は同じです。人は枠組み設定によって意見を左右されてしまいます。そしてこのような心理的影響をフレーミング効果と呼びます。


フレーミング効果には上記以外にも種類があります。そのなかのひとつがエピソードフレームとテーマフレームです。エピソードフレームではある事象を個人のエピソードとして物語的に捉えます。対してテーマフレームではある事象から主題を抽出して説明します。
例えばハリケーンカトリーナの報道をする際に、ある人が不幸にもハリケーンにあって自宅が浸水し、水や食糧の調達に困り、しかし近隣住民や消防団の助けによりなんとか生活していく、というような切り口なのがエピソードフレームです。しかし別の切り口もあって、それは政府が軍事費ばかりに予算をまわして堤防をつくることを怠ったのではないか、と報道するものです。これがテーマフレームというわけです。
エピソードフレームは問題を個人のものとして捉えさせるような傾向があり、先程の例で言うと、災害に備えて水を備蓄しておこうとか保険に加入しておこうなどの反応が起こりやすくなります。それに対してテーマフレームは、問題を社会的なものとして捉えさせることになり、政権批判などの反応と結びつきやすい傾向にあります。


さて、以上のようなフレーミング効果を政治家たちあるいはそのスピンドクタたちは熟知しています。彼らがよく使うのが強調フレームで、政策通のケリーに対して敬虔で親しみやすいブッシュを打ち出すように明確に対照さがわかるような方向に演出していったりしているのです。


以上は不特定多数に向けたものですが、*1セグメントに分けてそれぞれに違ったアピールをするマーケティング化も政治の世界では当然になってきています。小泉自民圧勝時の「B層」に向けての戦略などが有名ですね。


メディアやマーケティングの手法に敏感にならないと、私たちはたやすくイメージ戦略にのっかってしまいがちです。イメージで判断するのは長期的に見て私たちに利益をもたらすものではないと思います。でもそう志向してもなかなか難しいのです。

ナイーブでなくシニカルでありつづけるためには、知的体力がなければいけません。知的であるということは、批判的であるということで、批判的であるということは、まず第一義的に自己批判的であるということです。とはいえ、誰だって自己批判などやりたくない。さらに、思想的であるということは、やせ我慢をするということです。


上野千鶴子*2バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?」p394

まなざしは自分にかえり、考えを提示するにはストイックにならなくてはいけない。それって結構辛いことで、しかもとりあえずの利益には結びつかないものです。しかしそれを知りつつ誘惑に乗るか乗らないか迷うような段階に、とりあえずはもっていかなければなりません。

*1:他にも議題設定効果、プライミング効果、第三者効果などがあります。

*2:バックラッシュ!」は共著