「SARVHvs東芝」をよく知るための私的録音録画補償金FAQ<応用編>
私的録音録画補償金制度とは何なのか、その概略について基礎編でまとめました。
私的録音録画制度は、著作権者への利益の還元が目的とするもので、私的使用目的での複製の自由を確保しつつ、金銭で合理的解決を図ろうとする制度だということがお分かりいただけたと思います。
このことを押さえた上で、応用編です。
Q 私の録音機器にはボカロとか自作音源しか入ってないんですが、それでも補償金を間接的に支払うのは変じゃないですか?
A その通りです。本来ならば補償金支払義務は発生していないので、補償金の返還が請求できることに一応なっているのですが…。
録音録画機器や記録媒体を購入しても、自作曲を録音するだけだったり、こどもの運動会を撮影したりするだけで、他者の著作権や著作者隣接権のコンテンツを複製していないという人もいると思います。
そのような場合、私的録音録画補償金を支払う必要はないはずですが、製品の価格に補償金分が上乗せされる仕組みが採用されているため、事実上払う必要のないお金を支払っていることになります。
そこで、著作権法104条の4第2項は、購入した機器等を専ら私的録音録画以外の用途に供することを証明して指定管理団体である私的録音録画補償金協会(SARAHやSARVH)に補償金の返還請求をできることとしています。
しかし、(1)他の用途に使っていないと証明することは難しいこと、(2)極めて少額のお金のために煩雑な返還手続きをとるのはコストベネフィットに見合わないことから、現実的には返還請求をすることは考えられません。
かつて、SARVHに対して私的録音録画補償金の返還請求をした猛者がいたそうですが、DVD-R4枚分で返還金は8円だったそうです。専門家も「このような額の返還は制度としておよそ実効的意味がない」「しかし結果的に複製しなかった者に課金する理論的根拠はないので、全く実効性のない規定ではあるが返還の規定を置かざるを得なかった。その意味では合法性の≪アリバイ≫的な規定」であるとしています*1。
したがって、私的使用をしているかという事実の有無に関わらず、実質的にすべての機器・記録媒体の購入者に対して課金しているのが現状です。
参照:著作権法104条の4第2項 私的録音録画補償金の支払の特例
第三十条第二項の政令で定める機器(以下この章において「特定機器」という。)又は記録媒体(以下この章において「特定記録媒体」という。)を購入する者(当該特定機器又は特定記録媒体が小売に供された後最初に購入するものに限る。)は、その購入に当たり、指定管理団体から、当該特定機器又は特定記録媒体を用いて行う私的録音又は私的録画に係る私的録音録画補償金の一括の支払として、第百四条の六第一項の規定により当該特定機器又は特定記録媒体について定められた額の私的録音録画補償金の支払の請求があつた場合には、当該私的録音録画補償金を支払わなければならない。
2 前項の規定により私的録音録画補償金を支払つた者は、指定管理団体に対し、その支払に係る特定機器又は特定記録媒体を専ら私的録音及び私的録画以外の用に供することを証明して、当該私的録音録画補償金の返還を請求することができる。
Q コピーに制限がかかっているなら、補償金は不要だということになりませんか?
A 私的録音録画補償金制度の目的・趣旨を考慮すれば、そう考えることもできますが、まだ議論の続いているところです。
すでにお話ししたとおり、私的な領域での録音録画は自由ですが、私的領域における複製が「微々たるもの」だと言いきれなくなってきたため、複製者から権利者へ利益を還元する必要があるということでできたのが、私的録音録画補償金制度でした。
このことを踏まえると、(1)複製回数を制限するタイプの保護技術なら、私的領域における複製が権利者に影響を与えない範囲に抑えるという事前の調整が可能であり、(2)複製回数や態様を把握するタイプの保護技術なら、複製回数や態様に応じた課金ができ、契約などによって事後の調整ができるということになります。すなわち、権利者は私的領域における複製であっても、程度把握して予想することができ、私的複製が与える影響は少なくなると言えそうです。
今回の紛争で問題となっているアナログチューナー非搭載DVDレコーダーについては、デジタル放送につき技術的にコピーが制限されています。デジタル放送専用録画機が補償金の対象になるかについて、平成21年1月の文化審議会著作権分科会報告書によれば、関係者の合意は得られていないということになっていました。しかし、文化庁は2009年9月「デジタル放送専用録画機は補償金の対象になるか」というSARVHからの問い合わせに対してアナログ・デジタルを問わず補償金制度の対象であるとしています。ここは争点のひとつとなるところでしょう。
Q メーカーが補償金の徴収に協力しないと言ったらどうなるのですか?
A 対象機器の製造業者が協力義務に反した場合の制裁は、著作権法上は特にありませんが…。
対象機器を製造販売するメーカーには、補償金の支払い請求および受領について協力義務はありますが(著作権法104条の5)、メーカーに直接の支払義務はないため、協力義務違反に対する制裁規定はとりあえずありません。著作権法上は、ユーザーがSARAHやSARVHに対して私的録音録画補償金を直接支払うというという建前になっており、メーカーはそのお金の流れを助けるにすぎないということになっているからです。
このことを指して、「事実上全業者が拒否しないという前提あるいは合意の上に成立しており、極めてもろいガラス細工のような制度である」と言われています*2。
この点は、裁判上も争点になると考えられます。なぜなら、仮に問題となるアナログチューナー非搭載DVDレコーダーが補償金の対象になるとしても、メーカー側が徴収協力を拒否することができるのであれば、メーカー自身に支払義務があるわけではないのですから、あとは原則に戻ってSARAHやSARVHがユーザー個人に対して支払いを求めなくてはいけないことになり、裁判上の請求が認められないことになるからです。
しかし、メーカー側はかねてより補償金を販売価格に上乗せしておらず実質上負担しているのはメーカーである旨発言してきました。このことが「協力義務」または「支払義務」の認定について裁判上どのような影響を与え、また、協力義務の法的性質がどう判断されるかは別途注目すべき点のひとつであると考えられます。
応用編が長くなってしまったので、続きは発展編で。