ダウンロード違法化を問題視しなければならない5つの理由

報道によると、私的録音録画小委員会第15回会合でダウンロード違法化が既定路線になったということだ。「違法複製物又は違法配信からの録音録画の取り扱い」(ダウンロード違法化)の問題は、「第30条の適用対象外とする方向で対応すべき」という方向らしい。


以下に述べるのは、MIAUの公式見解などではない。私見である。


最初から既定路線だったというのは仕方がないというか、現在の官公庁の人事システムや政策の形成過程を考えれば自明のことである。
しかしながら、やはり今回の対応には問題点がいくつかある。

まず、私には具体的にどのような方策で違法ダウンロードを検知するのか、そのシステム設計が全く見えてこない。仮に有用なシステムが存在し、違法ファイルのみを検索できるようなシステムを現時点で手配できるのであれば、もしかしたら私はダウンロードの違法化に反対はしないかもしれない。しかし、具体的な運用方法について言及されず、概念図くらいしかない状況下で*1、実務的に何とかします、というのは、6000通ものDL違法化反対の意見書が提出されている以上、笑止でしかない。制度設計について具体的な話に入っていないのに、「ユーザーの不利益にならないような制度設計をする」では説得力にあまりにも欠けている。

先日公表された本件中間まとめに対するパブリックコメントは、7500通中、6000通がダウンロード違法化反対の意見を提示していたという。うち、4200通がテンプレートを利用したものだったとはいえ、逆にいえば、非テンプレの違法化反対が1800通で、残りのパブリックコメント(1500通)より多い。
にもかかわらず、結局、あるいは結果的に、それらは無視されることになったわけだ。
今回提示された違法複製物又は違法配信からの録音録画の取り扱い(ダウンロード違法化)問題が第30条の適用対象外とする方向で対応して良いとする理由は、

  • 仮に法改正された場合における法改正内容等の周知徹底
  • 権利者が許諾したコンテンツを扱うサイト等に関する情報の提供、警告・執行方法の手順に関する周知、相談窓口の設置など
  • 適法マークの推進

これら三点である。これらは中間まとめ案に書いてあった内容ほぼそのままな気がするのは、私の気のせいだろうか。

さらに、実務面で言えば「仮に、権利者が違法サイトからダウンロードしたユーザーに対して民事訴訟をするとしても、立証責任は権利者側にあり、権利者は実務上、利用者に警告した上で、それでも違法行為が続けば法的措置に踏み切ることになる。ユーザーが著しく不安定な立場に置かれる、ということはない」と資料に記載されていたようである。

ダウンロード違法化が施行されたら、何人かの権利者(国内外を問わない)に声をかけ、警告なしで即民事訴訟を起こし、和解金なり何なりを合法的にかっさらう、というRIAA的な企業が設立されるだろう。
いや、別に新しく設立することは必要ではないのだが、要するに業界慣習や実務上の慣行を無視する企業ないし団体が出てきても全くおかしくないし、法文にそうした記載がなければ、彼らの行為は合法である。
そして「情を知って」を「利用者に警告した上で、それでも違法行為が続けば法的措置に踏み切ること」と読み込むのは、他法との兼ね合いからして不整合であり、無理なのではないかと私は考えている。

ところでMIAUは、別にすべてのコンテンツをタダで見せろとは言っていないし、著作者の許諾を得ずにコンテンツを流通させることを擁護しているわけでもない。ここは誤解しないで頂きたい。
「いわゆる『違法着うた』や、ファイル交換ソフトを使った違法複製物のダウンロードなどによる『フリーライド』(ただ乗り)で、正規品への流通に影響が出ているのは事実」なのだろうが、それらは公衆送信化権(アップロード)で叩けるのであるから、わざわざ副作用の大きな劇薬=ダウンロード違法化を導入するのはいささか筋が悪いのではないかと主張しているのである。セカンドベストならまだしも、ワーストにちかい手段を出されたのではたまらない。
このことは、真紀奈さんがMIAUの眼光紙背で詳述しているので、そちらを参照していただきたい。


最後に、ちょっと大きな話をしよう。立法者は、もしかしたら、あらゆる著作物の私的複製を行う権利を誰かに与えるというようなことは望んではいなかったのかもしれない。それに、とても残念なことかもしれないけれど、ユーザーは私的複製を行う権利を有しているわけではない。それは著作権の例外にすぎないから「権利」ではない。
しかし、フランス控訴院*2の言葉に従えば「法律上の権利制限は、法文により明らかにされた要件に従う場合にのみ、制限されうる」。そして利用者は全く同様に「法的に保護された利益」を享受している。なぜなら法は、著作者の支配権を制限し、権利が制限されるものとして掲げられた行為を公衆が行うことを明示的に許容しているから。
控訴院が考えたのは、以下のようなことだった。利用者は権利制限規定の便益享受を要求することができない。しかし、権利者は、私的複製を行う利用者の正当な利益を無視しない義務を負う。

法の画定している範囲は、技術で(そしてそれを裏書する法で)オーバーライドされてしまう。でも、それは本当は良いことではない。法解釈の次元では正しいのかもしれないが、でも、この結論はやっぱり不当だ。権利者はゲームのルールを一方的に押し付けようとしているから、そして自分の好きなように固有のバランスを強制しているからである。


だから、結果的にユーザーの意見が無視されることになってしまった結論は、とても残念だと思うし、不幸なことだと思う。
私は、別に権利者や文化庁を敵にまわしたいのではない。できればいろいろ話し合って落としどころを探っていきたいと考えているし、クリエイターの皆さんとその作品に大きく感謝している。できれば、好きな作り手がお金に困るようなら、微々たる額かもしれないが援助もしたい*3
だから、ここでユーザーがそっぽを向いてExitしてしまって、産業のパイが縮小してしまうことが、音楽や映像の文化にとって一番悲しいことだと思うし、そういうことをできるだけ回避したいと考えている。




【補】合法マークについて
合法マークへの意見を入れるのをすっかり忘れていた。

サイトごとに合法マークをつけるのは、ユーザー参加型だと合法マークがもらえないことになりそうだし、インディーズの人などにどう対応するかが問題になりそう。
適法マークの認定主体が、私的な団体によるものか、何らかの法的根拠を有する団体なのかによっても、話が変わってきますが、独占禁止法など経済法的に問題があるかもしれない。そのあたりの検討はいつなされるのだろうか?
あと、たとえば、適法配信サイトが違法配信した場合、当該サイトは違法ダウンロードについて著作権者に対して責任を負うかどうかなど、細かいけれど重要な点は、現状では詰められていないのではないしょうか?

コンテンツ付与型の合法マークにするなら、マークとコンテンツのひも付けがきちんとできないのではないかと私は懸念しているけど、おそらく紐付けは精緻にはできないでしょう。合法マークをコンテンツごとに付与するとしたら、電磁的方法で、しかもユーザーが外観上認識できて、かつ偽造に耐えうるマークって技術的に可能なのか…「偽造に耐えうる」の時点で難しいけれど、でも信頼を担保するのであれば、偽造にたえなきゃいけません。もちろん100%とはいえませんが、十中八九な蓋然性は必要だから、それができないというのは仕様書としてデスマーチな予感。

コスト的にサイトごとにマークを管理した方が楽で、マークの虚偽記載する人も出てくるのかもしれないが、まあマーク自体を商標などを使って保護すれば問題ないし実効性もあるかもしれないけれど、やっぱりいろいろと重要な問題がまだ詰められていないし、上述の問題は発生するので、それなのに既定路線にされても…という感じ。

*1:小委員会で配布されたらしいが、それもどの程度のものなのだろうか?

*2:パリ控訴院第4法廷2005年4月22日判決、Perquin c/ Sté Universal Pictures Video France : JCP G 2005 II 10126 両親が鑑賞できるようにとDVDをVHSに落とそうとしたが、技術的プロテクトによってメディアの変換が出来なかったため、訴えた事例

*3:性悪説とかいろいろ言われるが、ファンならそう思うよね?