ライセンスと契約について―つづき

「ライセンスって契約なの?」

前回、導入と結論だけ書いてみましたが、今回は鄯)ライセンスは契約と言っていいのか(技術的疑問)についてcedさんの素晴らしい解説などを引用しつつまとめていきたいと思います。*1

私は

ライセンシーの契約受諾に関する意思表示が明確でない


GPLv3 Conferenceリポート1: 現実的な理想主義
http://japan.linux.com/opensource/06/01/27/0445258.shtml

というところにひっかかっていました。



契約の基本は合意です。つまり両当事者間の意思表示として申込と受諾がないといけません。ライセンシーの受諾がいつなされるかについて、cedさんが教えてくれたのがシュリンクラップ契約でした。

事例として一番良いのはシュリンクラップ契約だと思います。
http://e-words.jp/w/E382B7E383A5E383AAE383B3E382AFE383A9E38383E38397E5A591E7B484.html


著作権法著作権法に記述してあることについて保護してくれる法律です。無方式主義を採用しているので、著作物が出来た時点でこれは適用されます。ソフトウェア会社が著作権法で許されている利用条件に制限を加えたい場合は別途個別にユーザーと契約を結んでこれを制限する必要があります。
(略)
ソフトウェア会社は許諾条項をソフトウェアに同封し、ソフトウェアの包装を破った時点でその契約に同意した、という形態を採ることで制限をかけます。ただし、シュリンクラップ契約が法的に有効か(つまり契約として有効か)は裁判所がまだ判断してはいないので微妙なところではあります。同様に、CCでもシュリンクラップ契約にも似た契約という形態をとることで様々な利用形態を実現できるようにしています。

ちなみにCCで契約の合意が発生するのは、著作物を利用した時点となっているそうです。

許諾者は、かかる条項をあなたが承諾することとひきかえに、ここに規定される権利をあなたに付与する。本作品に関し、この利用許諾の下で認められるいずれかの利用を行うことにより、あなたは、この利用許諾(条項)に拘束されることを承諾し同意したこととなる。
http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/2.1/jp/legalcode

判例が出ていないので微妙であるとは言え、シュリンクラップ契約(CCだと著作物利用)はかなり有効だと考えられます。
なぜなら、ソフトウェアあるいは作品の利用のみであるなら錯誤による無効の主張などが可能となるかもしれませんが、改変を加えたり複製物を頒布することはかなり意図的な行為であると考えられるため、利用規約に反したライセンシーの重過失を問えそうだからです。
また今後もシュリンクラップ契約が行われ続け慣習化されていけば、事実的契約関係理論の見地から言うと契約が成立していると見なすことができそうです。
事実的契約関係理論とは、

大量かつ定型的になされる契約の場合には、いちいち契約の締結の意思があったかどうかを問題にするのはおかしいのではないか、ともいえそうである。むしろ、この種の契約は、電気の利用・自動販売機への硬貨の投入・バスへの乗車といった、社会類型行為があれば、個別の意思を問題とすることなく契約が有効に成立するといってよいのではないか。

民法 I [第3版] 総則・物権総論

という主張です。
ただし、この理論は意思なしに契約の成立を認めることになるので、伝統的意思主義の立場からは反対されていますが。*2


つまり私の疑問は、技術的にはほぼ問題ないということがわかりました。
ただcedさんも

シュリンクラップ契約は考えてみれば著作権者が一方的に有利になり兼ねない契約方法です。というか、仮に契約条項に従えない状況が発生した場合、ユーザーにはソフトウェアを使わない(インストールしない)という選択肢しか残されていません。或いはソフトウェア会社と直接交渉して個別契約を結ぶか、または裁判を起こすという方法も考えられます。

と仰っているように、ライセンシーの立場が弱くなってしまうという欠点がともないます。


しかし、契約にするとしたら著作権法の枠内でできてしまうことが利点としてあります。このことは以下のようにcedさんにお答いただいてから初めて気づいた点です。

CCや、CCの元になっているGPL(General Public Licence)は、著作権法を使って著作権法の利用条件を拡大する面白い手法を採りました。日本の著作権法で言うと第六十三条の「著作物の利用の許諾」を使っています。*3
(略)
CCやGPLは第六十三条を使って「利用」の範囲を拡大させてしまいます。これでユーザーは著作権法に則って自由に著作物を利用できるようになります。

著作権法的にも文句を言わせない形になっていることも納得。
でも著作者人格権の問題がからんでくると苦しいかなあ。*4


そしてwikiのGNUFDLの項の法的問題のところとか
http://ja.wikipedia.org/wiki/GNU_Free_Documentation_License
を読んでいてさらに思ったこと。
契約じゃなく単独行為だと取引安全が担保されにくいのですよね。やっぱり代替案が立てられませんね。

ところでやはりというか何と言うか、同じ論題は茶会でも話されていたそうで。その際、紛争解決についてはADRの話があったらしいです。
わあ。また学ばなくちゃいけないテーマが増えちゃった・・・。


参考URL
裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)について
http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/adr01.html


裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/announce/H16HO151.html



なにはともあれ、cedさん、丁寧に解説してくださいまして本当にありがとうございました!!


ご紹介していただいた本:
ライセンスの詳細な解説本としてO'Reillyの
Understanding Open Source and Free Software Licensing
http://www.oreilly.com/catalog/osfreesoft/index.html

*1:戦略的問いの鄱に関しては前回結論のところで述べたということにしてください・・・。

*2:とても合理的で現実には即しているんだけど。ちなみにドイツの判例ではこの理論を採用してます。

*3:第六十三条 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。 2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。 3 第一項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。 4 著作物の放送又は有線放送についての第一項の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。 5 著作物の送信可能化について第一項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第二十三条第一項の規定は、適用しない。

*4:譲渡できないことになっているからです。