Re*

授業でレポートを書いたので、再利用。

設問

「日本は国際社会においてどのような国家戦略をもつべきか?」についてディスカッションした上で

  • どのような国際秩序がなぜ日本にとって望ましいのか?
  • その国際秩序形成のために日本はどのような外交および内政が必要か?
  • そのような政治を行うための国内支持基盤はどこに求められるか?

について述べなさい。A4用紙1枚にまとめること。
ただし

  • アメリカの国際戦略
  • アジアにおける国際関係
  • 日本国内の政治状況

に留意して考えてください。
その際、小沢、村山、小泉の発言を手がかりに、3つの異なる構想を比較しつつ、自論を展開してください。

答案

日本にとって望ましい国際秩序とは、中国とアメリカが均衡を保つような秩序である。両大国のパワーバランスをとる上で日本が緩衝材として必要不可欠な存在になり、さらに適宜介入していくという選択が、相対的にリソースが少ない日本の立場を考えると現実的であり、そのなかで最大限の外交効果を期待できるからである。
この方針の背景には、アメリカが自由主義普及という名の下に自国(あるいはアメリカ首脳部)の経済的利益を追求していく戦略をとっているだろうということ、そしてそのような国際戦略が今後さらなる躍進を遂げようとしている中国と衝突していくであろうということの2点が前提として含まれている。*1


前述の方針は、小泉の構想と同じくリアリスティックな国際秩序観を有しており、日本の積極的な国際秩序形成参与を肯定しているが、新保守のように反共ではない。*2北朝鮮や中国を感情的に恐れることは外交上意味がなく危険ですらあるからだ。特に中国は重要なパートナーであり、互恵的な安定関係である必要がある。有権者はこのことを理解し、また政府もそうした理解が広がるよう働きかけねばならない。


以上のような意味では村山の構想したような、*3東アジアとの協調を重視する戦略とも言える。
しかし日米安保を否定はしない。なぜなら、例えば小沢の構想する「普通の国」のように*4自立的安全保障という視点から軍備をするという選択は、諸外国の反発やアメリカの猜疑心によって起こりうるデメリットを考慮すると、今のところ引き合わないからである。
もちろんアメリカに尽くしたところで、アメリカと日本の利害が一致していなければ有事の際に安全保障が機能せず見捨てられる可能性はあるから、やはり「普通の国」になるべきだという主張もできるかもしれない。だが、アメリカと日本の利害を一致させるような外交および内政を行うことで解決を図るのが最適であり、軍備は最適解ではなかろう。*5なぜなら日本が平和主義を謳うことで得てきた利益が少なからずあるからである。さらに言えば、財政や福祉政策等の見直しの方が現在の優先順位は高いからでもある。
そして小沢の構想は国際貢献それ自体を自己目的化しており、ニーズにこたえるかわりに日本は何を求めるかという点がはっきりしないし、国連の勢力がアメリカによって削ぎ落とされた今、*6国連中心主義を背景にしたこの構想は実効性が薄いのではないかと思われる。


では、以上のような戦略を行うための国内支持基盤はどこに求められるのだろうか。*7新保守の小泉はポピュリストな「改革」論を打ち出すことで国内支持基盤を獲得した。*8中国や北朝鮮などの外敵、および抵抗勢力という内なる敵を立てて不安を煽り、自らにはポジティブなラベリングをすることで、いわゆる「B層」の支持を得たわけである。
小泉の「構造改革」の結果、「B層」にしわ寄せが来はじめていることが予想されるため、「B層」の支持奪取することもできるだろう。
しかし中国を「敵」として設定せず、自立的安全保障・軍備を主張しない以上、右傾的時流に乗ることはできないので*9B層」の支持は集めにくいと考えられる。
無論「教化」はすべきであるし、軍事費の増大や徴兵制度設立の可能性、*10平和主義の放棄などを強調すれば右傾化に多少の歯止めがかかり、支持も受けられるかもしれない。


また、福祉や格差是正、政治的自由などとパッケージングして、*11国家主義的なものに違和感を覚えるやや左派的な、しかし旧来であれば中道と呼ばれていた人々を支持基盤に求めることも有効だろう。都市部のホワイトカラーや一部の中小企業経営者がそれにあてはまる。
ただしその場合、いわゆる「勝ち組」と呼ばれる高所得者層からは支持されない可能性が高いことに注意しなくてはならない。*12

傾向

このレポートを提出した学生は、70人くらいだと思います。
先生によると、村山的な平和主義を支持したのは約2割、小沢の「普通の国」路線を支持したのが4割、小泉的な国益重視リアリストは1割だそうで。あとは「アメリカ軍撤退を見据えて、軍拡にならないよう軍備」「自主独立路線(かなりの軍拡)」などがちらほらといった感じらしいです。
また、55年体制下の吉田路線(軽装備で経済発展)を支持する人はいなかったそうです。「アメリカは日本を守ってくれないじゃないか・・・」という旧保守的嘆きも見当たらなかったとか。


私がいたディスカッションのグループでも「普通の国」路線を支持する人が結構多かったです。そして中国や北朝鮮の問題とか対米追従外交にフランストレーションを感じているみたいです。ある程度気持ちはわかりますが、あまり戦略的態度とは言えないでしょう。理念と実装は同じくすべきでないときもあります。

*1:この前提条件が滅失した場合、あるいはもっと重要な前提条件が考えられるならば、もちろんこの論考は失効します。

*2:小泉首相をはじめとする新保守主義者の特徴はこの他に、「反・戦後民主主義」「改憲」「復古的」「ポピュリストな『改革論』」などがあるとされています。

*3:村山談話から引用すると「とくに近隣諸国の人々と手を携えて、アジア太平洋地域ひいては世界の平和を確かなものとしていくためには、なによりも、これらの諸国との間に深い理解と信頼にもとづいた関係を培っていくことが不可欠と考えます」

*4:小沢のかつての発言を引用すると「『普通の国』とは何か。二つ要件がある。一つは、国際社会において当然とされていることを、当然のこととして自らの責任で行うことである。当たり前のことを当たり前と考え、当たり前に行う。日本国内でしか通用しないことをいい立てたり、国際社会の圧力を理由にして仕方なくやるようなことはしない。」「これはとくに安全保障についていえる。湾岸戦争時の国際貢献PKO協力法案をめぐる議論を振り返るまでもなく、こと安全保障となると、にわかに憲法や法制度を口実にしたひとりよがりの理屈がまかり通り、何とか国際協調の責任と役割を回避しようとする。どの国よりも世界の平和安定に貢献しなければならない立場の日本が、安全保障を国際貢献の対象分野から除外することなど許されるわけがない。そのことを冷静に考え、安全保障の面でも自らの責任において自らにふさわしい貢献ができるよう、体制を整えなければならない。これは、軍国主義化、軍事大国化などとはまったく別次元のことである。」

*5:もっと積極的な理由は以前のエントリーで述べた通りです。紙幅の都合で省きました。

*6:正確には、国際社会の意見が割れていると表現した方が良かったでしょうね。

*7:政策ありきで選挙できれば誰も苦労はしないって話もありますが・・・。

*8:外交問題を争点にするのは難しいんじゃないかとも思いますが、小泉はうまくやって優先順位が必ずしも高くなかった郵政問題を争点にできたのだし、できなくはないかと。

*9:もちろんネット右翼のピークは過ぎたのかもしれませんが、「傾向」をみていただければわかる通り、やっぱり結構右にいってます。

*10:再軍備を主張する人に徴兵制など自分が負荷を強要される可能性を指摘すると、意外と想定しておらず、及び腰になってしまうような人が多いのは気のせいでしょうか?

*11:やっぱり外交よりは内政政策の方が得票に結びつきやすいでしょうしね・・・。

*12:以上、提出時の文章のまま。ただし注はつけていません。