新解さんとバージョン管理

ご存知の方も多いかもしれませんが、意外と知られていないようなので紹介してみます。いろんな意味で熱い辞書「新解さん新明解国語辞典 第6版 小型版)」です。
その実力をご存知ない方のために、新解さん的には定番とも言える【恋愛】の項をご紹介しましょう。

れんあい【恋愛】
特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。

すごいです。
他の追随を許さない、強烈で深い味わいです。


ところで、前掲の【恋愛】は第三・四版のものです。
初版および二版では

れんあい【恋愛】
一組の男女が相互に相手にひかれ、ほかの異性をさしおいて最高の存在としてとらえ、毎日会わないではいられなくなること。

となっていました。
新解さんは第ニ版と三版の間に苦しい想いをしたようですね。
さらに最新版の第六版では

れんあい【恋愛】
特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔いは無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。

これぞまさしくバージョンアップです。


さて以上の変遷を見ていただければわかる通り、辞書の編纂には終わりがありません。そして新解さんと同様、常に変化していく現象的性質をもつのが、ネット上のコンテンツです。

インターネット上においてコンテンツは静止状態に置くことができない。それは常に改変の可能性を持つ流動的な状態に置かれることになる。コンテンツは「モノ」から「コト」に変わってしまう、と言ってしまってもいい。


雑記帳 - Scan This Book! - New York Times
http://d.hatena.ne.jp/ced/20060517/1147815422

かつてテキストは、書き上がればそれで固まって完成してしまう「もの」が多かったのです。しかし今は辞書やblogあるいはオープンソースのように常に新しくなり続ける「こと」としてのコンテンツに触れる機会が多いと思います。


私は、己の特異さに自覚的になっていった最新版の新解さんよりも、ちょっと押し付けがましい近所のおじさんのような第三版の方が好きです。でも幸運なことに、新解さんは紙媒体なので、第三版も完成したままの文章で手元において読むことができます。それに第三版と第六版の区別も物理的にはっきりわかります。


でも仮に新解さんがネット上にあったとして、上書きされていたり、勝手に書き換えられていたり、あるいはバージョン管理が杜撰でどの版がどの版かわからなくなっていたりしたら困ってしまいます。
だからバージョン管理は今後とても大切になってくるのではないでしょうか。


ちなみに「WEB新解さん新聞」新解さんの謎 (文春文庫)新解さんの読み方 (角川文庫)そして新解さんリターンズ (角川文庫)など新解さんの魅力を紹介するものごとはたくさんありますので、ぜひ新解さんのひととなりを味わってみてください。