白田先生インタビューを一部再録―許諾についての考察

以下のインタビューは2006年1月14日に国際大学GLOCOMの片隅で行われたものです。ised@glocomの設計研第7回終了後、ゲストコメンテータとして参加なさっていた白田秀彰先生に懇親会第1部の時間を割いていただきました。お疲れのところを缶ビール片手に語っていただいたため、いろいろな意味で過激に、そしてかなりぶっちゃけた内容になっております。
ちなみにもとの記事は日本のネット上の著作権表示についてにあります。



※inflorescencia=inf.  白田秀彰先生=白田


法以外の観点から正当とは言いがたいことはあるか?

inf. 「法以外の観点から正当とは言いがたいことはあるか?」について。倫理的な観点からの問題とかです。


白田 ああ!当然出てくるのは・・・まあ、よく事務局長(ロージナ茶会)は2次的創作*1にものすごくこだわってるよね?


inf. はい(笑)


白田 何パーセント自分でオリジナルで作ったのかということに関して、非常に曖昧な面があるので・・・。


inf. そうですね。


白田 著作権表示に関して、ちょっと改善の余地があるんじゃないかと思うね。それは、いろんな論者が言ってるわけだけど、100パーセントオリジナルから作ったという人はあまりいないわけで、おおよそ何パーセント自分が作ったか、残り何パーセントはどうなのかっていうことに関しては、何かルール化した方が良いのではないのかと思うね。で、たとえばその・・・やおいマンガでね。えー。キャラはひとの(著作物)だけど、このからみは俺ので・・・みたいな。


inf. ははは!


白田 だけど、キャラはあれで、からみも誰で、みたいな。何かその〜編集の部分だけ、とかね。


inf. 編集もひとつの創作ですよね?


白田 そそ。だから何パーセントがこの人のものかってことに関して、何か・・・表示とはいかなくてもルール作りをした方が良いのではないかなと。


inf. ええ。


白田 そうすると逆に、何かルールができることによって、パロディがやりやすくなるかもしれない。


inf. あ〜。


白田 つまり、ちゃんと表示をして「この分に関しては私は別に権利をもたないし、主張しませんよ」って言うと、かえって、やりやすくなるかもしれないよ。


inf. 枠があるから、やりやすくなるんですね・・・。今は、あやふやで怖いからやれないことがある。そこで境界を設定してあげることで、かえって、出来ることの最大限までできる、と。


白田 そうそう。

フェアユースは認識されているか?

inf. では「フェアユース*2は認識されているか?」。・・・認識されていないってことで(笑)


白田 というか、日本の法律上はフェアユースない*3からね。


inf. ま、そうですね・・・。


白田 ただお目こぼしされてるっていう脱法状態のみがあるわけで、アメリカのように、その、「この使い方はフェアだ!」っていうことを正面切って裁判所で言えないわけだから。


inf. あー。だからフェアユースの存在自体を・・・つまり「他の国にあるのに、日本にないのはどうして!?」みたいな思いはなぜ出てこないんだと・・・。


白田 私はあちこちで言ってるけど、知らんと思う。みんな。


inf. 私の友達とかもコピーライトで保護されてる範囲とか規定されてない範囲とかも分かってない・・・。


白田 うん、分かってない。


inf. むしろ「え!あるんだ?」ぐらいの感じで。だから、もっとそこは何か・・・すべきなのではないかと。でも、さっきの(isedの)議論*4じゃないですけど、最初のインパクトというかインセンティブになるようなものがないとできないって話ですよね。


白田 んー。だから日本の裁判所がねー法律に従って判断を下すって言うんじゃなくって、世間の常識に従って判断下す*5ということをやると、フェアユースというのは自ずと立ち上がってくる領域なんだけど、日本の法律上それはやらないことになってるから・・・。


inf. そうですね。


白田 だから、認識されてるかって言うと認識されてない。なんでかって言うと、それはよその制度だから。以上。


inf. 以上ですか(笑)はい、ありがとうございました

著作権表示が正しくなされていない場合、どのような手段が是正にふさわしいか?

白田 「著作権表示が正しくなされていない場合、どのような手段が是正にふさわしいか?」さっき言ったよね。何パーセントが自分のものかということを、やりにくいにしても、一応やるような方向を考えた方が良いし、あのー。フィッシャーって先生が唱えてたのは、「自分がどの作品をベースになって作ったのか出せ」っていうことを言っていて・・・。


inf. ああ。参考文献みたいなもののことですか?


白田 そう。だから学者の世界では参考文献を表示して引用元を出すってことは義務だったのだけど・・・それと同じようなことを音楽や映画においても実装できるようにすると、逆に、さっきも言ったようにやりやすくなるんじゃないか、と。というのは学者の世界で他人の論文を引用するっていうのは、むしろやらなくちゃいけないって言われてるわけで・・・。


inf. そうですね。


白田 それやっても何でアンフェアって言われないかって言うと、これをどこから持ってきましたということを表示するっていうルールが示されているわけで。逆にそれを破ると、剽窃だってたたかれるというカルチャーがあるというわけで・・・。


inf. はい。


白田 だから、ラップミュージックとか音楽領域でも「参考楽曲」とかね。「この曲のどこをパクりました」っていうことを正直に出しながらパクるっていう。そういうカルチャーがあれば、もしかするとかえってコンピレーションとかが作りやすくなるのかもね。そう思います。

制度を整えてフェアユースを確保するべきか?

inf. はー。では、テーマを変えて「制度を整えてフェアユースを確保するべきか?」


白田 これはもう絶対確保すべきだと思います!あのー。日本の情報産業がデットロック状態に陥っている大きな理由は、このフェアユースが全然無いってことで。で、フェアユースって要するにさ「たったこんだけ使ったって別にいーじゃん!」ていう・・・。


inf. あはは!


白田 すごいね、わかりやすいロジックでできてるんで。「じゃあ、ここまでなら いーじゃん!」っていうものを社会的コンセンサスとして作れると思うので、是非日本でもフェアユースを入れなきゃまずいと思います。


inf. はい。


白田 で、逆にね。フェアユースを入れることによって、権利を強化しても社会的なバランスとして統一がとれるので、あの、権利を強化したがってる人も是非フェアユースをわかってくれるといいな、という。


inf. はは!なるほど。


白田 例えばね、著作権の(保護期間を)20年間延長しましょうって話で、あんなこと言うのはとんでもないって言ってるわけだけど、仮にね「マス・アーカイブ*6を作るっていうのがフェアユースです」って言われちゃえば、何百年保護期間があってもマスアーカイブができちゃうんですよ。(参考文献: 「やっぱり保護期間延長を批判する」HotWired Japan)


inf. あ〜!そうですね。


白田 だから、権利を強化したいっていう人は、専ら金の問題のためなわけだから。で、フェアユースってご存知のように、商業的利用に関しては、ほとんど防御として効果がないんで、だからその〜「権利は強化しますよ、ただしフェアユースも入れますよ」って言うと、トータルバランスとしては変わらないんだけど、結果的にビジネスの儲けは大きくなり、社会の効用は増えるっていう・・・。


inf. 利用者も(過去の作品に)触れられるという。


白田 そうそう。だから日本の権威者が、何でフェアユースを導入するのに抵抗するのかな、と。権利強化とフェアユースの導入をセットにすれば、そんなに社会的なバランスは壊れずに、批判をかわせると思うんだけどね。


inf. うーん。何で主張しないんでしょうか?


白田 視野が狭いから。


inf. あははは!!


白田 いやこれ、ひとえに、ほんっとにね、目先のことしか考えていない人たちばっかりで、それがもう嫌になっちゃって・・・。


inf. はは!


白田 頭の良い人も、ものすごく「法ドグマ」にはまってて、一歩引いてみるっていう見方をあまりしないのか、そういうことをしないように世間がひとつの枠を作ってるような気がしてならない。


inf. ああ・・・。


白田 つまりそういうことを、僕みたいなアプローチになっちゃうと、完全に主流派から外れていくっていう雰囲気あるから・・・。うーん。


inf. うーん。・・・難しいですね。

著作者人格権はどこまで尊重されるべきか?

inf. じゃあ意見を伺います。「著作者人格権はどこまで尊重されるべき」でしょうか?


白田 著作者人格権をまず留保して、一般的な名誉毀損法のなかに組み入れてしまえばよろしい。


inf. あー。うーん。なるほど。


白田 ただしね、まあ、あえて人格権ってことで言うと、氏名表示権だけは確保しなきゃまずい。


inf. 氏名表示権だけ、で、あとは・・・。


白田 ん。で、良いんじゃないのかな?例えば同一性保持権に関して言うと、今の世の中だったら原作者が「これが原典です」ってことを世の中に出せるわけでしょう? Webに掲載するとかWinnyでばらまくとか。だからどんなに他の人が改竄しても、本人が「原典である」と権威付けしたバージョンはこれですってことがわかってれば、同一性保持権に関しては、どのレベルでの同一性が重要かっていうのを・・・。


inf. それはそれぞれの人が判断すれば良いと。


白田 そういうこと。だから完全に原典が必要だって人は、本人が書いたものを見ればいいわけで・・・。


inf. 原理主義の人はそれを読めば良い、と(笑)


白田 そうそうそう。


inf. (原作じゃなくても)楽しめる人は楽しめればいーじゃん、という(笑)


白田 そう、それで良いし、例えば学問的な研究で「要約本が出た」っていって、それで勉強になった人がいればそれで良くって、さらにそれで原典と違うって認識できれば良いわけで、ただある作品が(作者とは)別の人の作品だということになっちゃうとまずいんで・・・それは資源の再配分のときまずいんで。氏名表示権だけはがっちり守んなきゃいけないけど、あとは・・・良いんじゃないかな?


inf. はい(笑)わかりました。

いわゆる『グレーゾーン』は白黒はっきりさせた方が良いと思うか?

inf. では、「いわゆる『グレーゾーン』は白黒はっきりさせた方が良いと思うか?」


白田 えっとね・・・法律やる人間からすると、白黒はっきりさせなきゃいけないわけですけど、効果的な価値からすると、白黒はっきりさせちゃまずいわけで、そのためにも是非フェアユースを導入した方が良いなと思います。


inf. なるほど〜。


白田 だから結論から言うと、「グレーゾーン」は残すべきである、と。


inf. フェアユースという形をとってですね。


白田 そうそうそう。


inf. グレーゾーンを残すべきだと。


白田 でもね・・・おそらく白黒はっきりならないと思うよ。知財に関して言えばね。


inf. そうですか?


白田 だって、例えばさ、Aという楽曲とBという楽曲が、ある人の認知上においては類似していても・・・。


inf. あ、あー!!


白田 他の人にはそう聞こえなかったらだめじゃん。


inf. そうですね〜。


白田 だから類似性とか、パクったかパクらなかったかっていうこと自体が、主観的な判断に非常に依存していて、何かその主観的判断が客観的に担保できるかどうかを裁判で確認しているわけだから、もとよりはっきりしないものです。


inf. そうですね。




さて、今回このインタビューを一部再録したのは、id:ueyamakzkさんがコメント欄

著作権については、最近ずいぶん悩んだのでした。 http://d.hatena.ne.jp/ueyamakzk/20060624#p1

と述べていらっしゃったので、この件に関して私の基本的な姿勢を示したいと思ったからです。


おそらくこのインタビューのなかに、著作権の問題点とその解決策、そして著作権法をとりまく現状から「コンテンツ創造サイクル活性化」への指針にいたるまで幅広い内容がつまっています。読んでくださった方には

情報時代において、知的財産戦略を考えるとき、なぜ日本には、Googleに匹敵する情報企業が存在しないんだろう、なぜ日本にはWaybackMachineに匹敵するサービスが成長しないのだろう、と反省する方がマトモな考え方のはずだ。ヒントは、フェアユース


「やっぱり保護期間延長を批判する」(HotWired Japan
http://hotwired.goo.ne.jp/original/shirata/060111/

という白田先生の問いの意味もわかっていただけたのではないかと思います。以上は白田先生の意見ですが、皆さんはどう考えるでしょうか?著作権との付き合い方を考えていく上で何らかの一助になれば幸いです。

*1:二次創作。著作権のある作品のストーリーとか世界観、キャラ、アイテムなどを元にして(パクって)、そこに独自の解釈とかストーリーを乗っけて制作すること、またはそうしたした作品のこと。同じジャンルで創作されるとは限らず、例えばある小説を元に小説が書かれる場合だけじゃなくてイラストや漫画、フィギアなど他のジャンルで行われることも多い。また、元ネタと1対1対応しているわけでもない。つまり二次創作物Aは、漫画BのキャラとゲームCの武器そして漫画Dの世界観を利用しているなどの場合がある。原作の世界観に基づいて独自キャラクターを追加すること(例えばポケモンの原作で実在しないモンスターを創作したりとか)原作のキャラクターを用いて別世界の話を構築すること (「パラレルもの」と呼ばれてるらしい)なども含まれてたりするそうです。ここまでくると、すべての作品は何らかの作品の二次創作だって言えなくもないんじゃないかと思えます・・・。

*2:fair useとは要するに、著作権をもってる人(たいていは作品を作った人とか企業)に「お許し」をもらわなくても、使ったりできること。

*3:フェアユースは、日本の著作権法では認められていません。でも、著作権法にはフェアユースもどき(著作権者の許諾がなくとも使用をすることを認めている事項)はあって、違法性のないフェアユースの概念に相当するとも考えられます。具体的には、「私的使用のための複製」「引用」「時事問題に関する論説の転載等」などなど。

*4:このインタビューは2006年1月14日に開催されたised@glocomの設計研第7回『なめらかな社会とその敵』(講演:鈴木健氏)終了直後に行われました。設計研第7回についてはこちらをご覧下さい。

*5:概念法学的じゃなくて自由法学的にしたら、という話と思われます。概念法学というのは、おそらく①(実定)法は完璧で、どんな問題に対する解決も想定しているという前提に立って②具体的解決は、法律を分析したり解釈したりすれば、オールオッケー☆全部導き出せるのだから③裁判官は自ら法を作ったりすべきでない、問題を法律とかに照らし合わせることを唯一の課題とすべし!!というような考え方のこと。想像できると思いますが、概念法学の良いとこは、法解釈の客観性と法的安全性(legal certainty)に優れているところ。つまり、揺らぎとかがなくて安心なのです。でもその反面、法の内容が固定化されその適用が形式的・機械的にされて、流動・変化する社会の現実に適応せず、具体的妥当性(equity)に欠ける。つまりギクシャクとして杓子定規になりがちってとこがあまり良くないんです。そこを批判して出来たのが自由法学。現実社会というのは多様だし変化もする…だから制定法では間に合わないのもしょうがないよねという認識のもと、現実に合わない法律を客観的に適用してもしょうがなくない?という主張をしています。現実社会を正しく秩序付けるところに法本来の機能があるのだから、法のガチガチな解釈だけじゃなくって創造的機能を認めようって考えだと言えるでしょう。一応、日本でも両者の組み合わせで裁判は行われいますけど…。まあ概念的側面の方が強いかもしれません。また制定法(statute)じゃなくて判例法(common law)を第一次的法源にしたら、という仮定の話とも考えられます。制定法を第一次的法源にするというのは・・・まあ平たく言えば、「いま既にある/ちゃんとした手続を通った法律の解釈でやってこうよ!」ということで、これは大陸法(civil law)系の特徴。ちなみに、ここで言う「大陸」っていうのはイギリスから見たヨーロッパ大陸のことで、ローマ法の影響を受けています。それに対して判例法を法源にしてるのは、ゲルマン法の影響を受けた英米法(common law)系の特徴で、「筋を通せば、それぞれの判例で解決すりゃいーじゃん!」ということになる、のかな?現在日本は大陸法系に属しているから、これが仮定の話になるってのは分かっていただけたでしょうか?

*6:mass archive。白田先生によると「マス・アーカイヴというのは、要するに記録できるものは何でも記録して、効率的に検索して活用できるようにしようというもの。どんなに利用者が少なくなったとしても、売り物にならなくなったとしても、創作者達の血と汗と涙の結晶であるところの作品には高い文化的価値がある。」 (Hotwired Japan 「やっぱり著作権保護期間延長を批判する」より) とのこと。情報技術の発展によって容易になった。