ひねくれものの知恵の実

Freakonomics Intl Pb: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything

Freakonomics Intl Pb: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything


Freakonomics(邦題は『ヤバい経済学』)はその名が表しているように、経済学の本なのにとても風変わりです。まずお金の話がほとんど出てきません。お金の話はアメリカのギャングたちの家計簿くらいで、あとは相撲の八百長の研究や不動産業者の言い逃れ、犯罪と中絶の関係だとか子供の成績の決定要因などです。
ネタの連続で経済学のやるべき事例でないように見えまが、人がものにどう反応するか、インセンティブとはどういうことかなどについて正面から楽しげに取り組んだ本です。統計などデータを使って常識を覆すような結論を導いていく様子は、知的興奮を呼び起こすと言うか、かつて学問が娯楽だったと思い出したくらいエキサイティングです。しかしながら、

We have essentially tried to figure out what the typical gang member or sumo wrestler figure out on his own (although we had to do so in reverse). Will the ability to think such thoughts improve your life materially? Probably not.

本書の最後で「この本を読んでも、別に生活がより良くなるわけではないね」と著者たちが宣言しているところがありました。なんでも私たちが得られるものは、

You might become more skeptical of the conventional wisdom; you may begin looking for hints as to how things aren’t quite what they seem; perhaps you will seek out some trove of data and sift through it, balancing your intelligence and your intuition to arrive at glimmering new idea.

だということ。見せかけに騙されないなんて、なんだか生活が良くなりそうなものですよね。でも、この新しい発想は不快なものかもしれないと著者は言うのです。なぜなら事実は道徳的でなかったり聞くに堪えなかったりする場合もあるからです。

As we suggested near the beginning of this book, if morality represents an ideal world, then economics represents the actual world.

「この本の冒頭近くでそれとなく示した通り、もし道徳が理想の世界を表すであれば、経済学というのは実際の世界を表すものなんだ」。
本書で得られる知恵や事実は、道徳的でなかったり聞くに堪えなかったりする場合もあるということを述べた上で、経済学から遠く離れているような事例を紹介していた著者たちが、経済学の本質を指摘しています。


井の中の蛙は大海を知る必要があるか、嫌なことでも見たくないものでも見ることあるいは見せつけることに価値はあるのでしょうか。私は価値があると思います。それにおそらく知恵の実は食べられるべくして食べられたのであって、やはり事実は隠し立てできないと思うからです。