「何が著作物か」への答案

昨日のエントリでは私のゼミの課題について書きましたが、小倉先生のゼミではこんな課題を出していらっしゃるそうです。

次に掲げるものは著作物ですか?著作物でないとしたら、著作物性のどの要件を欠きますか。

1. 尾崎放哉の「せきをしてもひとり」という句
2. 「(⌒▽⌒)ノ_彡☆」という顔文字
3. 日本プロ野球育成選手統一契約書
4. Google Map
5. Bratisla Boysの「Stach stach」の歌詞
6. ル・コルビジェの「サヴォア邸」
7. 「シントミゴルフ」の音ロゴ

http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2007/05/2007_2351.html

小倉先生のところのゼミ生になったつもりで、順々に答案を作成してみます。

1. 尾崎放哉の「せきをしてもひとり」という句

本問の句は著作物である。

この作品は季語を含めない自由律俳句として有名な一句ですね。文芸の範囲に属するもので、創作的工夫を凝らしていると判断できるので、思想または感情を表現していると言えます。その他の要件も欠いているとは考えられませんが、少しだけ危ういというか、考慮に値するのは創作性の要件でしょうか。創作性の要件については、次の設問2で詳しく見ていきます。

2. 「(⌒▽⌒)ノ_彡☆」という顔文字

本問の顔文字は著作物ではない。創作性の要件を欠いていると判断するのが妥当である。創作性の要件とは、(1)他人が創作したものの複製・模倣でなく、(2)とりうる表現の選択の幅が広い中で選ばれた表現であり(3)その表現が日常的・平凡・陳腐なものない、というものである。もちろん創作性のハードルは、特許法の進歩性につき要請されるハードルと比べて到底高いものとは言えない。しかしながら当該顔文字については、記号で構成しなくてはならないため、使用し得る記号に自ずと限界があり、表現の選択の幅は広いとは言い難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないと判断できる。また、今日では顔文字の表現は日常的で平凡なものであると言わざるを得ないであろう。

ただ、もしそういう顔文字をたくさん集めて辞書やデータベース、小説を作ったら、それに著作物性は認められるでしょう。しかしそれは顔文字云々とは別の話になるのでここでは割愛します。…とか言ってたら顔文字はすでに特許登録されていたという記事が…!Ω ΩΩ< な、なんだってー!!
設問1では、俳句というジャンルの制約上、表現の選択の幅という観点から疑問が提起されるかもしれませんが、尾崎放哉の句は季語を含めない自由律俳句です。よって、一般的な俳句より選択の幅は広いと判断でき、創作性の要件を満たしていると考えられます。ちなみに「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という交通標語について、5・7・5調の表現全体にのみ著作物性を認めた判例があります*1

3. 日本プロ野球育成選手統一契約書

本問の契約書は著作物ではない。なぜなら契約書は事実を伝達するにすぎないのであって、「思想又は感情」を表現したものとは言えないからである。判例においても契約書案の著作物性は否定されている*2

ところでこの契約書、公開されているのですね(PDF)。選手会と球団側でひと悶着あったときに公開されたようです。ちょっと中身を見てみましたが、やはり事実の伝達のみと言って良い内容だと思います。
事実を伝達するにすぎないものであり、著作物性を認めがたいものとしては、レストランのメニュー、鉄道の時刻表、船荷証券用紙等がありますが、もちろん個別的に創意工夫を凝らしたのであれば以上に該当する作品であっても著作物と判断される可能性はあります。
新聞協会によると新聞記事も著作物だそうですが…時事の報道である新聞記事一般は、事実を伝達するにすぎないものとして著作物性が否定される可能性が高いです*3。無論、表現に記者なりの思想・感情が込められていれば著作物と判断されるでしょう。ちなみに新聞の見出しについて、知財高裁は創作性があるとは言えないとして、著作物性を否定しています。しかしこの事例において知財高裁は民法上の不法行為にあたるとして損害賠償を認めているので、著作物でないからといって無断転載して良いというわけではありません*4


4以降の答案はまた明日に続きます。続きはこちら

*1:東京高判平13・10・30「交通標語事件」

*2:東京地判昭62・5・14「土地売買契約書事件」

*3:著10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は著作物にあたらないことを規定しています

*4:詳しくは見出しやタイトルは著作物ではない(今さらではありますが) - 栗原潔のテクノロジー時評Ver2 [ITmedia オルタナティブ・ブログ]参照