「何が著作物か」への答案(2)

昨日のエントリで設問の3まで答えてみましたが、今日はその続きです。小倉先生からの出題は以下の通りでしたね。

次に掲げるものは著作物ですか?著作物でないとしたら、著作物性のどの要件を欠きますか。

1. 尾崎放哉の「せきをしてもひとり」という句

2. 「(⌒▽⌒)ノ_彡☆」という顔文字

3. 日本プロ野球育成選手統一契約書

4. Google Map

5. Bratisla Boysの「Stach stach」の歌詞

6. ル・コルビジェの「サヴォア邸」

7. 「シントミゴルフ」の音ロゴ

http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2007/05/2007_2351.html

4. Google Map

本問のGoogle Mapはデータベースの著作物である。

まず、設問3において事実を伝達するだけでは著作物性を認めがたい、と述べました。地図はどのような扱いになるかと言うと、条文により著作物として例示されています*1。これは、旧著作権法下において、このような例示規定がなかったため、地図の著作物性が争われたことがあったため、記載されたもののようです。文化地図、観光地図、鉄道地図などはどの要素を強調し、どの色彩を使うかなどに創作性があると認められ、著作物として保護されます。
Google Mapの場合は地図という側面もありますが、それとはまた別の側面もあります。Google マップ利用規約には以下のことが記載されています。

Google マップのサービスには、Googleが、第三者著作権を有するデータベースを編集した企業情報データが含まれています。かかるデータを許可なく使用した場合には、それらの第三者およびGoogleに帰属する著作権の侵害となるおそれがあり、また、商業目的での利用は固く禁止されています。ユーザーが企業情報データを取り出すことはできません。

http://maps.google.co.jp/intl/ja/help/terms_maps.html

そう、データベースも著作物になり得るのです。データ単体では著作権で保護されませんが、前回述べた通り、「情報の選択又は体系的構成によって創作性を有する」データベースには著作物性が認められます*2。情報の選択というのはなんとなくわかるとしても、体系的構成とはなんでしょうか。一応簡単に言うと(1)キーワードを付与し(2)グルーピングをし、(3)情報のフィールドを指定することだと言われています。ちなみに、収集の対象である情報(データ)は自分の著作物に関わらなくても大丈夫です。ただ、他者の著作権侵害の可能性は残りますが…。というわけで設問4のGoogle Mapは地図の著作物とも捉えられますし、データベースの著作物と考えることができそうです。
ところで、汎用的な編集物*3やデータベースほど網羅的で、使い勝手が良いということは言い換えれば、配列も平凡ということになってしまいそうです。編集著作物やデータベースの著作物は、一般にコピーをするものにとって変更は容易です。ということは、抽出・変更によって編集物やデータベースの著作権を侵害せずに新たな編集物やデータベースを作れてしまう可能性が高くなります。真に保護してほしいのは、情報の収集と検証に要した投資なはずなので、これはちょっと実態と保護範囲がずれてきてしまっています。そこで、不正競争防止法など著作権以外の手段による保護が望まれており、実際ヨーロッパでは、データベースを構成する情報の量的・質的に実質的な部分の抽出・再利用を禁じる著作権以外の権利(sui generis right)を新たに創設して保護しています。

5. Bratisla Boysの「Stach stach」の歌詞

本問の歌詞は著作物である。

これは正直難しいです。というか私この歌詞も曲も知りませんでした…。調べたところによると、Bratisla Boysはフランスのグループだそうで、歌詞はただひたすら"Kouroukoukou roukoukou stach stach"の繰り返しだそうです。空耳ソングに使われそうですね。うーん。まずは一般論から述べたいと思います。
歌曲は一見すると共同著作物*4のように見えますが、歌詞と楽曲を個別に利用可能なので「結合著作物」とされます。よって、設問5は歌詞のみによって判断しなくてはなりません。で、この歌詞が著作物性を有するかどうかなんですが…まあ要件を欠いていないと判断して良いのではないかと…。ポップスに対する一種の風刺と見ることができるかもしれませんし、思想または感情を表現していると言えるのではないでしょうか。

6. ル・コルビジェの「サヴォア邸」

本問の建築は著作物である。

建築も著作権の保護対象となり得ます*5。教会や市役所、学校、橋、記念塔などで、材質や構造は問われません。しかしもちろんこれも創作性が問われるところです。
ただ、技術上構造上必然的に用いられる形態は、たとえ美を備えるとしても創造的でないとされ、著作物性が認められません。では、合理性を重視していると言われるサヴォア邸は著作物性を有するのでしょうか。私は建築に明るくありませんが、サヴォア邸はル・コルビジェの代表作であり、彼の主張する「新しい建築の5つの要点(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面)」を体現しているのだそうです。そうであるとすれば、十分に創作性の要件を満たすと言えるでしょう。

7. 「シントミゴルフ」の音ロゴ

すみません…シントミゴルフも知らず、そのサウンド・ロゴも存じ上げません。よってその可否を論じることができません…。
サウンド・ロゴの著作物性の可否が注目されたのは、住友生命サウンドロゴ事件でした。詳しくは生方則孝氏の住友生命のサウンドロゴ裁判和解報告記事と著作権保護期間延長問題について - 音楽配信メモおよびサウンドロゴは著作物か? - 栗原潔のテクノロジー時評Ver2 [ITmedia オルタナティブ・ブログ]を参照のこと。


最後の方は駆け足になってしまいましたが、以上で私の答案はおしまいです。小倉先生、早く解答をだしてくれないかなあ。

*1:10条1項6号「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」

*2:著12条1項

*3:素材の選択又は配列によって創作性を有する著作物(著12条1項)のこと。典型例は画集や詩集の編集でしょう

*4:著2条1項12号

*5:10条1項5号に類型として例示されている