図書館における学術論文の複写についてQ&A風のまとめ

Qさんは個人研究家です。母校の図書館に来て必要な資料を探しました。何気なくコピーしようとすると、コピー機の前に張り紙が。「学術情報の多くは著作物として著作権法により保護されています。著作物のコピーは基本的に半分までです。複写は著作権法の範囲内で行いましょう。詳細はカウンターまで」。在学中はこんな張り紙なかったなあと思いつつ、Qさんは司書のAさんに質問しました。

Q:あのー。論文をコピーしたいんですけど、最近著作権とかうるさいじゃないですか。どういうのなら良いんですか?
A:その論文が掲載されてる媒体が定期刊行物かどうかでコピーできる範囲が異なります。


Q:え?どういうことですか?
A:定期刊行物でないのなら、コピーは基本的に著作物の半分まで*1。定期刊行物なら、発行後相当期間を経過していれば、個々の論文をまるっと全部をコピーできますよ。


Q:おー。そうなんだ。思ってたより厳しくないや。
A:ただし気をつけていただきたいのですが、個々の論文が著作物に該当するんです。つまり定期刊行物でない論文集などの場合だと、個々の論文の半分より少なくないとだめなんですよ。


Q:そうすると、このテキストと辞典を一部コピーするのは半分までだから大丈夫ですね?
A:あ、辞典なんですけど…。百科事典とかだと各項目の半分までしかコピーできないんですよ。項目ごとに著作物であると考えられているので…*2


Q:えー。なにそれ。研究目的でもだめなんですか?
A:すみません。一部分だけだと研究に足りないかもしれませんが、ダメなんです…。著作権を不当に害さないのであれば全部をコピーできるよう、権利者側と協議を行ってはいるのですが、なかなか難しいらしくて。


Q:うーん。そっか…。あの、定期刊行物って要するに雑誌ですよね?僕のコピーしたい論文、先月号に掲載されてるんですけどこれは全部コピーできますか?
A:月刊でしょうか?今月号が既に刊行されていれば、全部コピーできますよ*3。季刊以上の頻度の場合でしたら、発行後3ヵ月経てば全部コピーできるようになります。


Q:では、最新号に掲載の論文だったらどうなるんですか?
A:その場合でも、さっきと同じ基準で一部分なら無許諾でコピーできます。また、電子ジャーナルですと、契約によって最新号の論文も全部コピーできることが多いですよ。


Q:でも、なんでまた最新号は全部コピーしちゃだめなんですか?発行後相当期間とかよくわかんないんですけど。
A:図書館でのコピーが不当な経済的損失を与えないためです。そして、相当期間が過ぎると入手できにくくなるからコピーしてもOKになるんです。


Q:それだったら、経済的損失を与えなくて、入手困難なら雑誌じゃないふつうの図書も全部コピーしても良いってことにはなりませんか?
A:いいえ。でもお気持ちは分かります…。著作者の死後50年経ってからだったらパブリックドメインになるので大丈夫なんですが。不定期で刊行される論文集でも入手困難な場合には、公益という観点から、全部コピーできるように協議を行っています。


Q:大学紀要とか学術目的のでもダメなんですか?あれって広く研究の成果を公開するためにあるし。
A:難しいところです…。「黙示の許諾」といって、事前に許諾を与えて発行されているという考え方もありますが、やっぱり最新号を全部コピーしたいなら論文の作者に許諾をもらった方が良いと思います。ただ、外国の雑誌ですとそのへん明記してあって「公正な使用ならどうぞ」となっているものもありますよ。


Q:ふーん。そうなんだ。あ、確認なんですが、その期間とやらを過ぎた定期刊行物だったら1号の半分を超える量であっても、複数の個々の論文をコピーしても良いんですよね?
A:そうですね、その考え方で良いです。


Q:ありがとうございます、だいぶわかってきました。
A:いえいえ、仕事ですから。


Q:……。
A:……?


Q:ところであなたの気持ちを僕の心に写したいのですが?
A:私の気持ちはDRMのおかげで私的複製も禁止です。


                               完


参照リンク


【追記】
id:copyrightさんから以下のご指摘をいただきました。

まぁ、細かいこと言うと、コピーの主体は図書館だとか、利用者の求めが無いと図書館もコピーできないとかありますが。
だから厳密に言うと、「この文献はこの先生だったら読むと思うから」って図書館が先生からの具体的な要求が出る前にコピーを取っておくのはNGなんですよね。
あと、どうしても全部コピーをしたいっていうんなら、著作権情報センターの方法がありますけどね。

だそうです。どうもありがとうございます!

*1:昭和51年の著作権審議会第4小委員会報告の中で31条1号にいう「一部分」とは「少なくとも半分を超えないものを意味するものと考えられる。」とある

*2:「多摩市立図書館複写拒否事件」東京地方裁判所平成7年4月28日判決

*3:昭和51年の著作権審議会第4小委員会の報告書において、「通常の販売経路において当該定期刊行物を入手することができない状態」とし、「大学図書館における文献複写に関する実務要項」に規定された