意外と知られていないこと‐しったかぶれる法学用語解説(4)

【民事法と刑事法】
民事法とは、私法の実体法とその手続法を含んだもののことで、刑事法と対比した法として把握されます。それに対して刑事法とは、国家の刑罰権の行使を規律する法の実体法のことです。


違法な行為が成された場合、その行為者に対して社会のとる行動は、民事上では民事責任(不法行為責任)を問う損害賠償ということになり、刑事上では刑事責任が問われ犯罪として処罰されます。
民事責任法は、被害者個人に対する違法行為者の責任を問うもので、被害者自身が追及します。その目的は、被害者に生じた損害を填補することです。
対して刑事責任法は違法行為者の社会に対する責任を問うもので、その責任は国家が追求します。反社会的行為を社会全体で非難し制裁するという機能というわけです。


昔々は、民事責任と刑事責任は未分化でした。
でもやがて社会的制度に分化し、その分化は近代法において各国で終了したと言って良いでしょう。後述する英米法の場合、ちょっと事情が違いますが。


現代においては社会統制の手段という観点から刑罰と損害賠償の範囲を再考しています。刑事責任と民事責任を有機的に結合させようという求めもあるわけです。すなわち、民事に加害者に対する制裁も含めて考えるかということです。


英米法系では、法を社会統制の手段とみるプラグマティズムの伝統があり、また歴史的継続性もあるので、民事と刑事の分化は不徹底です。もっと言えば徹底すべきであるという発想も、一般的には見られません。
例えば、懲罰的損害賠償(punitive damages)は加害者の悪性が強い場合、通常の填補的損害賠償に加えて特別の損害賠償を求めるものです。目的は加害者に対する制裁によって、その種の不法行為の発生を防止することにあります。被害者の被った損害ではなく、加害者の反社会性を問題としているのです。


懲罰的損害賠償の例としてはPL法(製造物責任法)があります。これは日本でも導入されましたね。前述したように刑事責任と民事責任を有機的に結合させようという動きの一例と捉えても良いかもしれません。