意外と知られていないこと‐しったかぶれる法学用語解説(2)

【公法と私法】
公法とは、法の指導原理で、国家と地方自治体の関係と国家公共団体(国家+地方自治体)と国民との関係を対象とする法です。具体的には、憲法行政法、警報、訴訟法があげられます。
対して私法は、個人同士や私企業(個人も私企業も私人と言います)の生活関係を規律し、自由・平等を指導原理としています。具体的には民法や商法、その他の個別法があげられます。*1
以上を主体説といい、一般的な見解となっています。*2


それでは公法と私法の成立過程を見ていきましょう。
封建社会では、個人的生活関係は封建的身分制のなかに組み込まれていて、私法と公法は未分化のままでした。
そして市民革命において、人間の自由と平等を宣言し自由な所有権を認めるとともに、国家権力の行使を市民社会の保護に限定したとき、はじめて私法と公法が分化しました。なぜなら市民革命の原理のもとでは、個人としての生活関係は、個人が平等の立場で自由に形成されるものとしていたので、*3上下秩序の原理によって規律される生活関係は、 国家と個人の関係に限定されていたからです。
しかしやがて、資本主義の発展にともなう矛盾・欠陥があらわとなりました。同じ私人でも強い主体である企業と弱い主体である個人(労働者)の差が大きくなっていったからです。その是正のために個人的生活関係にも国家の干渉がしばしば行われるようになり、社会法・経済法の誕生が誕生しました。つまり私的自治の原則は広範な制限を受けるようになったのです。このことを私法の広範化といいます。


現在では公法と私法を対照してすべてを対立的に捉え、公法と私法がそれぞれ別個のものであるという考えは、実はあまり意味を持ちません。よって理念型の公法と私法の差異を前提としたうえで両者の関係を論じながら、ある生活関係において、その問題に対して最適な法規を適用するという方向になっています。
例えば、日本において戦後に経済的弱者のための労働法が制定され、それより以前に借地借家法、ごく最近では消費者契約法や利息制限法などが制定されています。これらは「所有の自由」「契約の自由」*4の一部を国家が制限して「公共の福祉」「社会的平等」を図ろうとするものです。



【実体法と手続法】 
実体法とは、民法や刑法のように本来の法律関係そのものを規律する法です。訴訟において裁判の基準となり、訴訟の内容面を定める法のことと言えます。例えば民法では私人間*5の利害調整のためにいかなる場に、誰に、どのような権利が発生するかを規定していますし、刑法では人のどのような行為が犯罪にあたるのか、これに刑罰を加えるための要件および加える刑罰はどのようなものかを規定しています。
それに対して手続法とは、民事訴訟法や刑事訴訟法などのように実体法を裁判によって具体的に実現する手続を定める法のことです。手続きをどのように進め、いかにして事実を認定し、どのような方式で裁判を行うかという、いわば訴訟の形式面を規定しています。
手続法は実体法に対して付属的地位を占めるように見えるため、手続法を助法、実体法を主法と呼ぶこともあると言います。しかし言うまでもなく、内容が形式を規定するのと同時に、形式が内容を規定するものです。形式をどのようにするかによって実体法の実現のされ方も異なってきます。

*1:ツァイラーは、公法というものは国家の体制や国家を作る時の方針に影響されるが、私法は自然発生的に生じるものでゆっくりと変化するものだと考えました。これはフランスの一連の革命に強く影響されたものです。

*2:他にも権力説や利益説があります。

*3:これを私的自治の原則といいます。

*4:この2つと「人格の自由」とが、近代私法の三大原則にあたります。

*5:しじんかん、と読みます